~~
六本木通りの喧騒(けんそう)を離れ、坂道を少し登ると、穏やかな空気の流れるアークヒルズ仙石山森タワー(港区)の緑地が広がっている。アオスジアゲハの舞うエントランスを抜け、高低差のある敷地を下ると、たどり着くのは中庭「こげらの庭」。ケヤキやヤブツバキなどが生い茂り、草陰にはバッタの仲間たち。水路にはカワニナ、池の止まり木ではシオカラトンボが羽を休めている。
日本で最も小さいキツツキ、コゲラがすむ森を目指した都会の小さな里山には、コゲラを生態系の頂点として、ニホントカゲ、シロハラ、コクワガタなどの生き物が生息している。
「生き物を意識した都市の緑を目指した」と、設計を指揮した森ビル(同区)設計部技術顧問の山口博喜さん。約1・5ヘクタールの敷地には、コゲラが生息できる規模の生態系が最適だった。
至る所に工夫を施した。枯れ木で餌を探して巣を作るコゲラのために、40本以上の枯れ木を配置。水を飲んだり、羽を洗ったりするための水場も設けた。
同ビルの脇を通るしいのき坂には、シイノキが密集して立ち並ぶ。「鳥がやってきて休むのは歩道の木」(山口さん)と、木々に連続性を持たせ、都心に点在する大規模緑地からコゲラたちが渡りやすくした。
36種の在来種で構成される木々は、高い木から低い木までさまざま。山口さんとともに設計に携わった同社設計部の鈴木章浩さんは、立体的な緑が連なることで「生き物のすみ分けを手助けしている」という。
地面に置かれた枝などをまとめたエコスタックは昆虫の繁殖を助け、石垣はトカゲやヘビなどの爬虫類(はちゅうるい)が潜り込みやすいよう、隙間をあけて石を積んだ。それぞれの生き物にとって「すみやすいすみかを作り、人が手を入れることで守れるところは守る」と鈴木さん。都市において人間と生き物が共存するバランスを保てるよう腐心した。
竣工(しゅんこう)した平成24年には、日本生態系協会による生物多様性の保全への貢献度を評価する「JHEP認証」の最高ランクを日本で初めて取得。そして翌年、目標のコゲラがやってきた。
今もコゲラはたびたび姿を現し、ヤマガラなど14種の鳥や10種のチョウなども訪れているという。
ただ、水辺に生息するヤゴやカエルは、ザリガニなどの外来種に脅かされている。緑地管理を担う西武造園(豊島区)の平林研人さんは「外来種は悪ではないが生態系には害」と話す。
緑化は「開発という都市の負担を緩和し、生き物の大切さや自然環境へのリテラシーを醸成する」と山口さん。国連の「生物多様性条約第15回締約国会議」(COP15)が今月開かれ、生物多様性への関心は国際的に高まっている。特に次世代の子供たちに、生き物にあふれる都市の緑地を通じて「緑も生きていると認識し、人間も生き物の一部だと感じてほしい」(山口さん)という。
整備された現代的な庭園とは異なるコゲラたちのすむ里山は、生き物と自然、人間の営みが共存する豊かさを伝えてくれている。
筆者:鈴木美帆(産経新聞)